【宇宙よりも遠い場所】 彼女たちを縛っていたもの ② - ゆづき編【よりもい】

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2018年に放送され、各社が行ったその年のアニメランキングでは軒並み上位をキープしていた『宇宙よりも遠い場所』(そらよりもとおいばしょ)。キャッチコピーを『女子高生、南極へ行く!』としたことでストーリー展開が推測できるにもかかわらず、たくさんの視聴者を釘付けにしてきました。

"なるほど、南極に行く過程でいろいろ壁にぶつかるのだな" と予測したうえで観賞していても、遥かうえをいく展開に感情は揺さぶられ、涙せずにはいられない。そんな名作のうちのひとつです。

さて、今回この記事で示したことは、その主人公である女子高生たち4人が、各々抱えている苦悩 = 心の縛りをどのようにして乗り越えてきたのかという点です。普通に過ごしているとつい諦めてしまったり、我慢して受け入れたふりをしてしまうモヤモヤとした気持ちを、日本から14,000km離れた場所でどのようにして解放していったのか、ということを丁寧になぞっていきたいと思います。

目次


仕事と友達

報瀬たちとは別に、テレビ番組のチャレンジ企画として南極へのチケットを手に入れていたのが、アイドルタレントの白石結月(しらいし ゆづき)です。報瀬が望んでやまない南極行きの機会を仕事として得てしまっているのですから、もし出会いかたを間違えていれば、結月は恨みの対象となっていたかもしれません。

しかし、仕事こそが結月を縛りつけるものとなっていました

子役として芸能界入りした結月は、マネージャーを担当している母の監視のもと、生活の半分を仕事に捧げている状態です。高校には在籍こそしているものの、結月が理想とする高校生活を送ることはできていませんでした。

デビューからその半生を芸能活動に費やしている結月は、いよいよ周囲との生活の違いを理解し、比べるようになりました。そして、高校生になったのだから 友達を作って部活をして、バイトをして、買い食いをして・・・ と、周りの生徒がそうしているように “普通” の学生生活を送りたいと考えていました。

長年の社会人経験によるものでしょうか。自分から行動することはできるようで、高校入学当初、クラスメイトに「友達になってください!」と声をかけ、友達を獲得しました。お見事!結月、はじめての友達です!これで憧れの高校生活が送れますね!

しかしその友達は、結月が有名だからという理由だけで尚早に結月との写真を求めてきます。さらに、結月が仕事の忙しさから遊びの誘いを断ると「また?」といった内容の返事を送ってくるなど、結月のことを理解しようとする態度は少しも見られません。はたから見れば「そんなやつら友達じゃない!今すぐ縁を切れ!」と言いたくなるような人たちでしたが、あいにく、そんな助言をしてくれる友達が結月にはいなかったのです。

もっとも、彼女たちからすれば、縁のないクラスメイトから突然「友達になってください!」と声をかけられて友達になる義務はありませんし、有名人だからつるんでみたという動機が生じることにノーとは言えません。くわえて、友達になろうと言われたから絡んでみたものの、口を開けば「忙しくて遊べない」「写真はNGで」などと言われてしまえば、あまり良い気はしないでしょう

結局のところ、結月は結月で友達の作り方がわからなかったからこのような事態に陥ったわけですし、それが転じてのちの『友達誓約書』にも繋がってくるわけですが、それでもこのとき、結月は “憧れの高校生活” が欲しくて欲しくてたまらなかったわけです

マネージャーである母からすれば、これから娘というタレントはまさに正念場であり、仕事を増やしておきたいところだったのでしょう。そんな折に、南極のレポートの仕事を獲得してきたわけですから、マネージャーとしては堅実な仕事をしたまでです。

ところが今の結月にはむしろ仕事こそが邪魔であり、友達ができてようやく幕を開けた高校生活が、仕事によって奪われたくないのです。忙しさによって友達と会うことすらできない現状に、結月は不満を抱えることになります

はたから見れば付き合うべきではなさそうな人間関係でも、「友達のいる高校生活」に縛られている結月は、彼女らを友達として受け入れ、なんとしてでも理想の高校生活を手に入れなければならない状態に陥っています。

というより、結月はこれまで友達ができたことがないと白状しており、友達というものがどういうものか知らないのです。これまでの経験から、それが自分にとって良い関係なのか悪い関係なのかを比較することができないのです。そうなると、初めてできた友達という名の人間関係に依存しようとしてしまうのは、しかたがないことだったのです。

と、結月はこれまでのことを思い返しながら、高校からは友達を作るためにいま頑張らないといけないのだと、キマリたちに独白します。そんな風に無理やり友達を作ろうとしている結月を見て、いたたまれい気持ちになったキマリからハグを喰らうも、キマリたち3人は親友同士なのだから、自分の悩みなどわかるはずがないのだと反発します

友達とは何たるかを知らない結月にとって、一緒に南極を目指しているキマリたちは親友にしか見えなかったのです。もっとも、結月でなくてもキマリたちは親友に見えてしまいますが。

結月の言葉に、キマリたちは呆気に取られます。親友と言われても、本人たちには自覚がないのですから。たしかに、偶然にも一緒に南極を目指すことになったとはいえ、3人は、ひと月まえに出会ったばかりです。どちらかというと、共に活動するメンバーといったところでしょうか。

本来、人間同士の関係を定義することは、そう簡単にできることではありません。親友同士に見えても、本人たちはその関係性を親友と名付けていないかもしれないのです。結月には、その微妙な違いがわかりませんでした。結月にとって、3人は同じ目標に向かって行動する親友としか表現できなかったというわけです

これまで自分が思っていたところの親友、あるいは友達関係にある3人から、「 私たちは別に親友ではない 」という話をされた結月は、わからなくなってしまいます。みずからが声をかけて「友達になって」と言葉で確認したうえで手に入れた友達とはうまく付き合えないのに、一方では、どこから見ても馴染み良く調和の取れているキマリたちが、自分たちのことを「親友ではない」と言っています。もはや、「友達」が何なのかわからなくなるのも当然です

それでも、結月にはたしかな手応えがありました。キマリたちは、結月のことを有名人という色眼鏡で見るようなことはせず、自然に話してくれました。そして、キマリたち3人は肩肘を張らないラフな関係性でありながら、「友達」という言葉にこだわることなく、曖昧なままで一緒に南極を目指しています。

それでいて、特別に親友でもないことを互いに言い合ってなお、その関係は微塵も乱れず、ナチュラルなままで付き合っていました。

3人の気楽さは、結月と接するときも同じでした。キマリからのナチュラルなハグは、それこそ結月がずっと飢えていた、友達という関係性を想像させるには十分すぎるぐらいでした

もっとくだけた言葉でいうならば、友達というものが何なのかを知らない結月にとって、キマリからのハグはあまりにも刺激的すぎたといったところでしょうか。

結月は、3人が羨ましくて仕方がありません。同時に、どうしたらキマリたちのような友達が作れるかはわかりません。みずから「友達になってください!」と宣言した結果つるむようになった学校の友達とは、よそよそしい付き合いしかできないのに。行動した結果がこれでは、もうどうしていいかわかりません

いっそのこと、キマリたちが無理やりにでもいいからこの鬱屈とした部屋から連れ出してくれたらいいのに。そんな思いが実りかけたのが、例の夢です。

ホテルの窓からはしごを使って外に連れ出すという古典的なやりかたは、結月も、そして視聴者でさえも、キマリたちなら本当にやってくれそうだという希望を持たせてくれました。しかし結月はそれが夢だとわかると、起きあがり、開けっぱなしになっていた窓の外を見遣ります。

わずかに寂しそうな表情を浮かべたあと、結月はひとり、いじらしく微笑みます。「なーんちゃって」というやつです。

あえてセリフを当てるならば、「そんなことあるはずがないのにね、私ったら期待しちゃって」といった感じでしょうか。ただ、キマリたちなら本当にそうしてくれるかもしれないと思わせてくれたことが嬉しかったのかもしれません

もちろん、窓の外にキマリたちはいないので、それを「変な夢」と割り切った結月は、振り返り、意識は孤独な部屋に戻ります。

結月は幼い頃から、芸能界という大人だらけの世界で息してきたわけですから、大人として振舞うことには慣れています。キマリたちという理想的な友人関係を目の当たりにしても、またいつものように、「諦念」という大人としての振る舞いに至っていたのでしょうか

ひとりきりの世界に戻った結月が LINEを確認すると、友達だったはずのクラスメイトたちはグループから退出していました。これでまた、結月はひとりです

理想的な関係を築き上げていたキマリたちが自分の夢と重なった夜。明けてまた、ひとりになった朝。この差分は、結月にふたたびの闇をもたらしたことでしょう。ホテルの部屋はなおも暗いままです。

そこに響くノックの音は、まさに希望の光でした。ドアを開けると、キマリたち3人が出迎えてくれていました

キマリたちは夢を見させてくれた存在で、あんな風な関係性になれたらと思いながらも、結月にとっては夢でしかなく、たった今それを「変な夢」だと割り切ったはずです

それなのに、キマリたちは結月の目の前で、優しく、まるで本当に友達を誘うかのように声をかけます。実は、このときキマリたちが誘ったのは、東京にある南極に関する科学館への同行だったのですが、結月にとっては実質、これが南極行きの誘いとなったのです

すぐに結月は母に電話を入れ「3人と一緒なら行くって言ってるの!一緒じゃなかったら行かないから! 」と高らかに宣言します。形だけの友達ではなく、言葉と行動を起こしてくれたキマリたちと一緒に南極に行くと決めた結月の嬉しそう顔は、これまで母でさえ見たことがないくらいのものだったのではないでしょうか。

友達誓約書

一緒に南極まで来た結月たち4人は、もうすっかり仲良しです。そんな折、結月の元にドラマのオーディション合格の連絡が届きました。本来であればおめでたい話のはずですが、結月はこれに不安を抱くのです。

ドラマの仕事が始まれば、結月は忙しくなってしまいます。今のように4人で会うことが難しくなるでしょう。そうすると、せっかく培った4人の関係が失われてしまうんじゃないかと、結月は心配でしかたありません

南極に来る前、結月が自分で作ったクラスの友達は、忙しくてなかなか遊びに行けていない間に疎遠になっていく形で結月の元から去って行きました。そのこともあって、結月は会う時間がなくなることを関係性の終焉だと捉えていたようです

キマリたちからしてみれば、会えないことぐらいどうってことはありません。日向が「ドラマがなくても、それぞれ生活バラバラだしな」と言えば、キマリが「もうみんな親友なんだし!」と続けます。キマリたちにとっては、それが普通なのです。

しかし、その言葉を聞いた結月は悪いほうに解釈してしまいす。キマリが言う「もうみんな親友」というのは、”親友だからこそ、いつも一緒にいなくても大丈夫”、と解釈するのが妥当でしょうが、結月はまだ一度も「友達になろう」と言われていないことを訴え、「みんな」の中には自分が含まれていないのだと、いじけてしまいます

もちろんそんなわけはないので、結月への説得を試みるキマリたちでしたが、結月はまだ確証を得られません。『友達誓約書』という書面を用意し、キマリたちにサインを要求します。これがあれば、離ればなれになっても友達でいられると考えたわけです。小さい頃から母共々で仕事の現場に入り浸っていた結月にとっては、これが最適解でした。

ところが、誓約書を差し出されたキマリは泣き出してしまいます。結月には何が起きているのかわかりません。

キマリは、もうずっと一緒にやってきていて親友だと思っていた結月から、友達であることを誓うためのサインを求められたのですから、さぞショックだったことでしょう。一方の結月はというと、明確に「友達」という言葉で定義しないと安心できません。ここに、両者のズレがありました。

ただし、キマリたちは、結月が友達の作り方をまったく知らないどころか、友達がどういうものなのかさえわかっていないということも十分に理解していました。だからキマリは、結月に誓約書を差し出されてしまった寂しさに涙しながらも「ごめんね、わかんないんだよね」と伝え、結月を抱きしめます。

2人は少し気まずくなってしまいましたが、落ち着いたあと、部屋で話すことにします。その際、キマリは旅立つ前に絶交を告げられためぐみのことを、結月に話します。

絶交宣言をされたキマリは、それでもめぐみのことを友達だと思っており、今も連絡を続けているといいます。チャット画面を見てみると、キマリが連絡を入れているのに対し、めぐみからはほとんど返事がないことに驚く結月でしたが、キマリはこれでも、めぐみとなんとなくわかりあえていると言うのです。そして、友達とはこんな感じに漠然としたものであると

完全に、とまでは言えませんが、キマリがそう話してくれたことで、結月は少し納得できたような表情を見せます。と、その直後、日向と報瀬がケーキを持って部屋に入ってくるやいなや、クラッカーを鳴らし「ハッピーバースデー!!!」と叫びました。

泣きながら、誕生日を友達からお祝いされるのなんてはじめてだと言う結月は、今度こそキマリたちのことを友達であると確信できたようです

『友達誓約書』なんて結ばなくても、キマリたち4人はもう友達なのです。曖昧なままでも、ちゃんと繋がっていられるのです


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【のんのんびより】 ウチはいなかに住んでるのん? - その①

2013年に1期が放送され、2015年には「りぴーと」と銘打った2期、そして2018年には劇場版と、コンスタントに最新作が放映されてきた人気アニメ『のんのんびより』。田舎暮らしの子どものたちの日々を描いたこの作品は、田舎という舞台において人々が暮らしていく際のふるまいや所作を、丁寧に、そして徹底的に描いていることが魅力です。その細やかな気配りは、登場人物たちが実生活で振舞う何気ない所作や、彼女たちが交わす言葉から見出すことができます。彼女たちが住んでいる村(※1)において、その中にいる人同士での会話にのみ通じる意思疎通の方法があるのは、生活している以上、あたりまえのことなのです。したがって、たとえ視聴者が知らないであろう言葉だったとしても、彼女たちにとってはわかりあえる言動であり、それをわざわざ説明するということはありません。この作品は、彼女たちの生活をそっと覗くような視点で作られているのです。彼女たちが当然のようにして振舞う説明不要のコミュニケーションが、ときに、ほんの一瞬だけ垣間見えることで、彼女たちが、”いまこの瞬間” を暮らしていっていることの鮮烈さを感じ取ることができるのです。_(※1)作中に登場する土地が「村」であるか「町」であるかは明記されていませんが、人口が少なく自然が生い茂っているという環境から本連載では一律に「村」と記します。_[anichantopic id=160][anichantopic id=193]








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