【宇宙よりも遠い場所】 彼女たちを縛っていたもの ③ - ひなた編【よりもい】

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2018年に放送され、各社が行ったその年のアニメランキングでは軒並み上位をキープしていた『宇宙よりも遠い場所』(そらよりもとおいばしょ)。キャッチコピーを『女子高生、南極へ行く!』としたことでストーリー展開が推測できるにもかかわらず、たくさんの視聴者を釘付けにしてきました。

"なるほど、南極に行く過程でいろいろ壁にぶつかるのだな" と予測したうえで観賞していても、遥かうえをいく展開に感情は揺さぶられ、涙せずにはいられない。そんな名作のうちのひとつです。

さて、今回この記事で示したことは、その主人公である女子高生たち4人が、各々抱えている苦悩 = 心の縛りをどのようにして乗り越えてきたのかという点です。普通に過ごしているとつい諦めてしまったり、我慢して受け入れたふりをしてしまうモヤモヤとした気持ちを、日本から14,000km離れた場所でどのようにして解放していったのか、ということを丁寧になぞっていきたいと思います。

目次


いちばんのお調子者である三宅日向(みやけ ひなた)は、キマリたちの南極チャレンジの話を小耳に挟んでいたうえ、キマリと偶然バイト先で知り合ったのをきっかけに、自分から南極行きを名乗り出ました。

高校を中退したものの、大学受験を目指している日向の現在の目標は、高校でなまけた結果、大学に落ちたやつらに「ざまあみろ」と言うことです。これには、日向の抱えるコンプレックスが感じ取れますが、コンプレックスは時に、行動するためのモチベーションになるのもたしかでしょう。

キマリたちと同じく高校2年生にあたる年齢の日向は、「面白そうだから乗った」といったようなフットワークの軽さで南極行きを志願しました。これには、報瀬は「遊びじゃないから」という忠告を入れます。

しかし日向は、調子の良い振る舞いとは裏腹に、高校を中退したあと、バイトをしてお金を稼ぎながら受験に向けて勉強し、模試の判定を良好な状態を保っていると言います。学校に通わずとも、自身の目標に対して本気で取り組んでいることに加え、行動原理が、目的を達成したあと周囲に「ざまあみろ」と言ってのけることであるという点は報瀬と共通です。

「勉強なら誰にも負けない」と言い放つ日向の堂々とした態度から、その姿勢が伝わったのでしょうか。きっかけが多少ゆるくても、報瀬は日向の南極行きを受け入れます。

日向は、4人の中ではもっとも周囲の空気を読んだ言動をします。結月の不機嫌そうな振るまいを察知すれば、芸能活動という仕事の複雑さを慮ったり、報瀬がいわれのない批判に怒りを表明すれば「悪意に悪意で向き合うな」と諭したり。

業界慣れした結果、外交的に大人としての振るまいを身につけた結月とはまた別の意味で、日向は内面的に大人として振る舞うことが多いようです

そもそもが明るく活発な性格である日向は、自身の内面をあらわにすることを良しとしていないようです。全体の雰囲気を読みとって、はしゃいでみたり、少し引いた視点から物を言ってみたりと、その場の空気を察するバランス感覚に優れています。その反面、自身のことはあまり語ろうとしませんでした

それでも、快活に振舞う日向には他の3人と同じように、モヤモヤとした気持ちを抱えていたのです。いえ、むしろ高校を辞めて働きながらでも自学できてしまうほどに自律した大人の面が、日向を苦しめていたようです。自分の気持ちを吐きだせる場所が、どこにもなかったのかもしれません。

日向が抱える事情は、全13話のうち11話まで語られません。6話において、日向の内面に触れる大事なエピソードがありましたが、その他の場面ではずっと、日向は盛り上げ役と、なにかと先陣を切る役の両方を担っては、みんなと楽しくやっていきます。

そんな日向の心を少しずつほぐしていったのは、報瀬のまっすぐさでした。

気遣いと意地

シンガポールにおけるパスポート紛失事件をみていきましょう。気を遣われたくない日向と、4人で一緒に南極へ行くのを譲りたくない報瀬は揉めてしまいます。

一度は、自分を置いて3人で先に行くよう言いくるめたつもりの日向でしたが、その話をした次の朝、目が覚めると日向の横に報瀬はいませんでした。気を遣われたくない日向に反して、日向を含めた4人で行く方法を見つけようと、報瀬は行動をはじめていたのです。

日向が自分を置いて行くよう報瀬に促したのは、パスポートを紛失した自分のせいで、誰よりも南極に行きたい報瀬の先行きが怪しくなることを嫌がったからです。目標に向かって行動していた人の邪魔だけはしたくない、自分のせいで誰かを失脚させたくないという気持ちです。

ところが報瀬は日向の提案を拒否し、4人一緒じゃないと意味がないと言い張ります。いったい、報瀬がなぜここまで意地を張っているのか、日向にはわかりません。気を遣われるのが苦手だと、やめてほしいと言っているのに、意固地に4人で行こうとする意味がわからないのです。

日向のパスポートが再発行できるのは2,3日後です。そこで、手持ちの飛行機のチケットを数日後のものに振替することを考えました。しかし、報瀬たちの飛行機チケットは格安で、変更することができません。

そこで報瀬は、南極に行くために、ひとり粛々と貯めてきた100万円を受付に差し出します。チケットの振替が効かないのであれば、日向の搭乗が間に合う便を買いなおそうと考えたのです。

ここまでされると、さすがの日向も声を荒らげます。自分のせいで報瀬に迷惑をかけたくないのだと言っているのに、報瀬は聞く耳をもたず、何がなんでも4人で同時に行ける方法を掴み取ろうとします。必死に貯めたであろう100万円を差し出してまで。意地になる報瀬を制止しようとする日向。しかし、報瀬はそのままこう放ちます。

「気を使うなっていうならはっきりいう。気にするなって言われて気にしないバカにはなりたくない!先に行けって言われて、先に行く薄情にはなりたくない!4人で行くって行ったのに、あっさり諦める根性なしにはなりたくない!4人で行くの!この4人で!それが最優先だから!!!!」

報瀬は、意地を張ることでここまで来ました。誰に何を言われようと、現実的に難しい壁があろうと、意地で100万円を貯め、意地でチャンスを掴んで、ようやくここまで来ました。報瀬にとって、意地にならないという選択肢はありません。4人でここまで来たのですから、意地でも4人で南極へ行きたいのです

まっこうからそう言われてしまった日向は面食らいます。なるべく気を遣わず、気を遣われないように生きていくことを学び、それがうまくやっていくことだと学んでしまった日向には、こんな風に、意地でも自分と一緒であろうとする報瀬に、そしてそのために本気でぶつかってくる報瀬に返す言葉が見つかりませんでした

明るい性格の日向は、ついお調子者として振る舞ってしまうところがあるものの、反対に、内面を口にすることを苦手としていました。報瀬の言葉に涙したのはそのせいではないでしょうか。気を遣われたくなかったのは、誰かから気を遣われることが疲れることであると知ってしまったからで、だから、報瀬にも気を遣われたくなかったのでしょう。

ところが報瀬が怒っていたのは、日向に気を遣っていたからではなく、「4人で南極へ行きたい」という報瀬自身の気持ちによるものだったのです。まっすぐな気持ちをぶつけられたのがはじめてだったのでしょうか。報瀬の言葉が刺さった日向は、思わず泣いてしまいました。

ここで一度、日向にとって心の縛り、お互いに気を遣わない代わりに、お互いの内面に踏み込むこともしないという内面的なブレーキが解放されたかのように見えるのですが、まだ根本的には解決していませんでした。そこで、そもそも日向がなぜ、気を遣われることを嫌うようになってしまったのかという話をしていきます。

過去との決別

日向の事情を簡単にまとめます。

高校で陸上部に入部した時点で実力者だったひなたは、一方で、3年生から大会への出場枠を奪うことに抵抗がありました。しかし、同級生から「手を抜くほうが失礼」と諭された結果、実力を発揮し、堂々と大会のメンバー入りを果たします。言いかたを変えると、自分のせいで3年生メンバーが大会に出られなくなったということです

怒りをあらわにした先輩部員が、日向へ助言を示した同級生に詰め寄ると、この同級生たちは見事なまでに、日向を裏切る側に回ってしまいました。その後も、日向にまつわる粗悪な噂が流されるようになり、かねてより集団でいることを得意としていなかった日向は、何もかもがどうでもよくなってしまい、高校中退という道を選びました

これは、先ほどのパスポート紛失事件の際に日向がみせた「自分のせいで誰かを失脚させたくない」という態度を体得したきっかけとなった事件とみて間違いなさそうです。

そして、そんな過去を受け入れ、割り切ろうとしていたのが日向です。どこか無理をして大人ぶっている様子が垣間見えるのはそのせいでしょう。

日向はあるとき、南極に来た理由を「何のしがらみのない人と、何にもないところに行きたかった」と語りました。嫌な人間関係に揉まれ、さぞ疲れてしまったのでしょう。

そんな日向のもとに、青天の霹靂が訪れます。11話、南極とのテレビ電話中継イベントに、かつて日向を陥れた同級生たちがエントリーしてきていたのです。それも "日向の友達" として。「あぁ、友達だったんだ〜」と話す日向は、どこか苦い顔をしています。

嫌な過去を忘れることは難しいですが、14,000kmも離れた地点にまで来てしまえば、多少は薄れていくことでしょう。「多分まだ怖いんだよ」とこぼす日向は、少しずつ、自分の内面と向き合おうとしているようです。

スッキリしない過去のことを水に流して、次に進んだら「ざまあみろ」と言い放ってやろうとしていた日向。「受験の前に何か成し遂げておきたい」という理由で南極を目指した彼女は、いつまでもいじけてなどいませんでした。モヤモヤとした気持ちから抜け出そうと、ちゃんと次に進んでいたのです。

本当に南極に来れたのだということをしみじみ感じると、ここまで連れてきてくれた報瀬に感謝を告げます

中継イベント当日、画面越しにかつての同級生たちが姿をあらわすと、日向は考え込みます。

いっそのこと、同級生たちのことを許してしまえば楽になるかもしれない。しかし、許されて安心するであろう相手のことを考えると、腹が立つ。そんな日向の状態を察した報瀬が「ざけんな?」という言葉を投げかけると、日向は虚をつかれたようにハッとし、それが自身の本心に当てはまっていることを理解すると、「ちっちゃいなぁ、私」と自虐してみせます

まだ許せていない相手を、許したことにしてしまおうかというのが、日向の葛藤です。許せば楽になるが、許したくないのが本心。この狭間にいてずっと不安定でありながら、過去に負けないよう、弱気な素振りを見せないようにしていたのが日向でした。

ライブ中継のオンエア直前、報瀬がカメラの前に踊り出ます。カメラを直視すると、日向の同級生たちに向かって宣言します。

「悪いけど、三宅日向にもう関わらないでくれませんか」

報瀬にとって、日向は友達です。日向を傷つけた奴らのことを、報瀬は許せませんでした。口火を切った怒りは激しさを増し、日向の同級生たちに、これでもかと怒気をぶつけていきます。

「あなたたちは、日向が学校やめて、つらくて、苦しくて、あなたたちのこと恨んでると思っていたかもしれない。毎日部活のこと思い出して泣いてると思っていたかもしれない」

報瀬は、日向のかつての同級生たちが、今さらになって求めてきた和解を拒絶します。と、ここで言葉に詰まった報瀬を、キマリがフォローします。

「そんなことないから!ひなたちゃんはいま、私たちと、最っっ高に楽しくて、超充実した、そこにいたら絶対出来ないような旅をしてるの!」

いつも間が抜けたような雰囲気のキマリですが、めぐみとの一件でもそうだったように、友情にはとても熱いようです。これほど的確なセリフを言い放つとは思いもよりませんでした。友軍の参戦に、報瀬は語気を強めます。

「日向は、もうとっくに前を向いて、もうとっくに歩き出しているから!私たちと一緒に踏み出しているから!」

慌てた日向は、報瀬を制止しようとしますが、結月がそうさせてくれません。「良いじゃないですか!友情じゃないですか!」 と、日向を制止します。ちょっと面白がっているようにも思えてしまいますが、結月にとっては、ずっと憧れていた友達というものが今まさに「友情のために」奮起していて、自分も当事者としてそこにいることが嬉しかったのかもしれません。

話は少しそれますが、結月はここで日向にハグをお見舞いしています。かつて キマリからされたハグ を、今度は日向に対してみずから、ナチュラルにやっていたということを踏まえて見ると、結月もやっとみんなと友達になれたんだなぁと嬉しくなるシーンですね。

さて、勢いもそのままに報瀬がまくし立てます。目線はなおも真っすぐ。微塵も乱れません。

「私は日向と違って性格悪いからはっきり言う。あなた達はそのまま、モヤモヤした気持ちを引きずって生きていきなよ!人を傷つけた苦しめたんだよ。そのくらい抱えて生きていきなよ!それが人を傷つけた代償だよ!私の友達を傷つけた代償だよ!」

このシーンにおいて重要なのは、報瀬はこれらの台詞を日向のためにぶつけたのではなく、報瀬の友達である日向を苦しめた奴らに対する報瀬自身の怒りとして放ったということです

日向は気を遣われるのが苦手だということも、それを受け入れた報瀬が気を遣わないようにすると明言したことも踏まえたうえで、報瀬はあくまでも報瀬自身のために、日向の同級生たちに怒りをぶちまけたのです。日向が目の前で傷ついて、いつまでも苦しまされていることに、報瀬は耐えられなかったのです

だから報瀬の台詞には「私たち」「私の友達」という言葉が出てきていました。それは、途中でフォローに入ったキマリも同じです。報瀬たちにとって日向は「私の友達」であり、「私たち」であります。日向の代理で怒っているのではなく、主題は「私」で、日向が傷つけれたことについて「私が」怒っているということなのです

気を遣われるのが嫌いな日向ですが、報瀬の言葉は気遣いなどではなく、報瀬の純然たる思いそのもので、だからこそ日向には響きました。かつての同級生たちのように、手のひらを返したあげく謝りもせず、今さらになって許しを求めてくるような人間に対して、自分の目の前で友達だとハッキリ宣言し、その友達を傷つけた怒りを、これでもかと叫んでくれた報瀬。人前で話すのが苦手なのにも関わらずです。

そして、キマリと結月も味方でいようとしてくれることを実感すると、日向はたまらなくなり、泣き崩れてしまいました。

「ざけんな」という、それを言うことで自分が小さい存在であると認めざるを得ない言葉を、報瀬が自分のことのように言ってくれたことで、日向は今度こそ本当に、過去と決別できたようです。こうして日向は、報瀬のいうとおり新しい一歩を踏み出すことができたのではないでしょうか。


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