【Aチャンネル】"振り向きながら バイバイ" という至高の歌詞について

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2008年から「まんがタイムきららキャラット」にて連載中の、黒田bb氏による4コマ漫画『Aチャンネル』。2011年にアニメ化し、OVAも製作されるほどの人気を誇るこの作品の魅力は、エンディングテーマ曲における最後のワンフレーズ、

「 つぎの角で振り向きながら バイバイ」

という歌詞に凝縮されています。

タイトルを『ハミングガール』とするこの主題歌の作曲は、アニソン界に知らない人はいない音楽制作集団MONACA所属の神前暁氏が、そしてその作詞を、これまたアニソン界に知らない人はいないこだまさおり氏が手掛けるという、まさに夢のタッグによって製作された曲です。

曲の雰囲気としては、マーチのように明確で軽快なリズムを刻みながら、楽しい放課後に中の良い友達と一緒に帰っているような気分にさせてくれるもので、歌詞もまた同様にそういった内容となっています。

今回冒頭で紹介した「次の角で 振り向きながら バイバイ」という1行は、この曲の最後を締めくくるフレーズとなっています。では、この歌詞がいったいどのように『Aチャンネル』を描写しているのかという話をしていきたいと思います。

目次


あらすじ

超がつくほどの天然娘・るん は、その明るい性格から男女問わずの人気者。学校では、誰から構わずたくさん話しかけられるような人物です。そして、もうひとりの主人公であり、るんと幼馴染のトオルは、るんのことが大好きです

るんは、頭のネジがいくつも外れてしまったかのようなドジっ子であり、るんが小さい頃から、トオルが(るんより1つ年下であるにもかかわらず)保護者のような役回りを担っていました。

さて、るんが高校に入学してから1年後。るんと同じ高校に、トオルが入学したところから物語は始まります。

トオルとるん

大きな1年間

  重要なことなので繰り返しますが、トオルはるんのことが大好きです。『Aチャンネル』の主題はここにあるといっても過言ではありません。そしてるんもまた、トオルのことが大好きです。2人の仲の良さは幼い頃からだったようで、幼少時代の描写は少ないながら、現在の親密な様子からは、2人が積み重ねてきた時間の長さが感じられます

中学3年になったるんが志望校を決めた際、るんの母はそれに賛同しました。しかし、るんといつでも一緒にいたいと思っているトオルが「来年は、るんが通う高校を自分の志望校にする」と明言したことが発覚すると、るんの母は態度を急変させます。

学業優秀なトオルに対し、るんはあまり勉強を得意としていません。元々は、るんに合った高校に行けばいいと考えていたるんの母ですが、このままでは頭の良いトオルが、るんに合わせて難易度の低い高校に入学することになっています。

本人たちはそれでも良いのでしょうが、普段から娘の面倒を見てもらっている親の身としては、娘のせいで、トオルの可能性を奪ってしまうことだけはさせられません

そこでるんの母は、るんの志望校をレベルの高い学校に変えさせようとします。勉強に情熱のないるんは一旦拒否しかかったのですが、幸い、るんはあまり物事を深く考えることはありません。「神戸牛食べ放題」というのを餌に出されると、るんはあっさりと引き下がり、レベルの高い高校を目指すことを決意しました。

1つ年下のトオルを家庭教師として迎え、勉学に励みます。そして見事、最初の志望校よりレベルが高く、頭の良いトオルが来年受験しても大丈夫そうな高校に合格します

それからの1年間は、中学生と高校生という関係上、トオルにとっては我慢の日々だったことでしょう。幼馴染ですから、家を行ったり来たりすることはできるものの、同じ学校に通っていた時代に比べると会える時間が減ってしまいます。ずっと一緒にいたいトオルにとって、耐え忍ぶ期間だったのかもしれません

トオルもまた高校受験を控えた中学3年生となりましたが、頭が良く、自律心の強いトオルは、焦ることなく着々と準備を進めていきます。もっとも、トオルにとっては自身が通う高校などどこでもよく、るんさえいれば良かったのです。1年後、トオルはるんの通う高校へ無事に合格しました。

友達

合格を報告しようと考えたトオルは、早速、るんの家に向かいます。受験が近づいてからというもの、集中するために2人は会わないようにしていたらしく、久しぶりの再会に、トオルのテンションはひとしおです。

るん宅に到着し、るんの部屋の扉を開けながら食い気味に合格を報告したトオルが目にしたのは、知らない女がるんと戯れ合っているという、トオルにとって衝撃的な場面でした

考えてみれば当然ですが、るんは高校で友達ができていました。今日、トオルが合格の報告をしに家に来るだろうと見越したるんは、自分の友達をトオルへ紹介するため、自宅へ呼んでいたのです。

るんから紹介を受けた同級生のナギ・ユー子は、トオルという新しくできた妹分にウェルカムムードです。もっとも、るんとイチャついていると初見で勘違いされたユー子は、るんに手を出す悪い虫と認定されたようで、トオルから厳しい制裁を受けることになったのですが。

この日を境に、4人は友達として仲を深めていくこととなりました。

2人きりの時間

トオルと、ナギ・ユー子の親交がはじまったことで、4人でいる時間が増えていきます。しかし、今までるんと2人でいるのがあたり前だったトオルにとっては、すこし寂しかったようです

無論、るんからナギとユー子を引き裂いてまで、2人になろうとはしません。なぜかというと、ナギとユー子は優しく、トオルのことを全面的に受け入れてくれていましたし、なにより、るんが2人と仲良くしていたからです

1話の冒頭、人気者のるんに気軽に話しかける男子生徒たちを、トオルは金属バットで追い払います。いつも、るんに悪い虫が近寄らないよう見張るのがトオルの役目でした。

しかし、今のるんが一緒にいるのは "気の良い友達" なのです。るんの大切な友達を追い払うことなど当然しませんし、かといって、ナギとユー子によって、るんと2人きりの時間は減ってしまったために、トオルはモヤモヤとした気持ちを抱えることになります

トオルの友達

トオルは、るんと違って明るさや活発さを持ち合わせていません。どちらかといえば物静かな優等生タイプです。もっとも、るんに関することでは情動が激しくなりますが。

落ち着きのあるトオルは、みずから積極的に友達を作るようなタイプではありません。というより、トオルにとっては、るんさえいればそれでいいのです。クラス内に友達を作ろうとする意志は見受けられません。しかし、そんなトオルに注目している人物がいました。

トオルとクラスメイトのユタカは、入学以来、トオルにいちもくを置いていたようです。ある日、ユタカが教科書を忘れ、隣の席のトオルに見せてもらったことがきっかけで、ユタカはトオルにグイグイと迫るようになります

「お近づきのしるしに」と、トオルを無理やり連れ出しては飲み物を奢ろうとしたり、トオルが休み時間にるんの元へ向かおうと教室から出ていく様子を見るや、腕を掴み、行き先を問いただすなど、やりたい放題でした。

トオルは、しつこいユタカを避けるようになるものの、時として、困っているユタカを見かけると、さりげなく手助けするようにもなります。これは、元からトオルが持ち合わせていた優しさでしかないのですが、優しくされたユタカは、ますますトオルへのファン熱が高まってしまい、その積極性は激しさを増すばかりです

と、ユタカのあまりのしつこさを見かねたユタカの友達・ミホが、迷惑そうにしているトオルから、ユタカを引き離すようになりました。

ある日、ユタカが数学を教えてくれと尋ねると、トオルはそれに応じます。しかし、教えても教えても理解できないユタカに苦戦していると、ミホが止めに入り、トオルの邪魔をしないよう忠告します。ここ最近、ユタカはトオルにくっつこうとしすぎていたのです

トオルは、やかましいユタカが離れてくれたことでせいせいするはずだったのですが、近頃、あまりにもユタカが絡んできたせいなのか、「いなきゃいないで寂しい」ということを自覚しはじめます。しかし、自分の気持ちに素直になれないトオルは、微妙な感情が入り混じった、悶々とした気持ちを抱えて葛藤することとなりました。

優等生タイプのトオルは、普段、物静かにしています。また、るんへの愛が強すぎるせいか、これまで、るん以外と仲良くしていたことも特になかったようです。最近、るんの友達という理由でナギとユー子とは仲良くなれたものの、もしかしたらこれまで、同じクラスに友達を作ったことがないか、あるいは、るん以外の友達を必要としていなかったのかもしれません

るんと2人でいられる時間が減った寂しさを抱えていたさなか、同じクラスに、自分に興味を持って話しかけてくれるユタカと、ユタカほど熱烈ではないものの、トオルと親交を深めようとするミホの存在は、得体が知れないうえに騒々しくありながら、トオルにとっては予想外に居心地の良いものになりつつありました

照れと面倒くささの入り混じった複雑な気持ちを抱えながら、トオルとユタカ、ミホの3人は、少しずつ仲を深めていきます。

ある日、ミホとトオルが談笑している様子を見たユタカは、2人が難しい話をしていることに気がつくと、自分だけ話に入れないと落ち込みます。

察しの良いトオルは、ユタカが会話に入れるように話題を変えました。会話の輪に入れたことが嬉しいユタカは、トオルとミホに抱きつきます。くっつかれてうっとうしそうな表情を見せたトオルですが、その顔はすぐ、微笑みに変わりました。もはや、この3人は仲良しな友達になっていたのです。

そうはいっても、ユタカとミホは、トオルにとっての一番が、るんであることをきちんと理解しています。あくまでも、トオルの邪魔をしないようにしながら、るんに会えない時間にトオルが寂しくならないよう、そっと、近くにいてあげる存在になっていくのでした。

「振り向きながらバイバイ」

アニメというのは、オープニングとエンディングに流れる楽曲を含めて世界観を統一することで1つの作品としている場合が多く、『Aチャンネル』においてもそれは同様です。

はじめにお伝えしたように、今回紹介したいのは、これまで数多のアニメにおいて主題歌を手がけてきた作詞家・こだまさおり氏による、TV版『Aチャンネル』エンディングテーマ「ハミングバード」の歌詞についての話です(OVA版では別の主題歌が存在します)。

この曲の歌詞については、以下のリンクより確認できます。

『音楽ポータルサイトうたマップ』より「ハミングガール TV ver.」

ご覧のとおり、歌詞は全体的に『Aチャンネル』の世界観ときちんと適合しています。みんなと一緒に楽しく過ごし、放課後になって一緒に帰るまでといった構成は、『Aチャンネル』本編を表したものとして綺麗にまとまっています。

注目したいのが、最後の1行、 「つぎの角で振り向きながら バイバイ」 という歌詞です。『Aチャンネル』は、るん、トオル、ナギ、ユー子の4人をメインに、それぞれの視点から日常のちょっとした話が展開されていく構成が基本ですが、物語の主軸に置かれているのは、やはり トオルの視点です

  • トオルが、るんを思って、嬉しくなったり寂しくなったりする。
  • トオルが、ナギとユー子と信頼関係を築いていく。
  • トオルが、ユタカとミホに心を開いていく。

主人公としての視点が複数存在する日常系作品とはいえ、話の基幹はトオルの視点で、トオルの気持ちが大きく描かれています。

トオルはいつでもるんを思っており、なるべく一緒にいたいと思っています。そんななか、たとえるんと2人だけの時間が減ったとしても、トオルはるんの大切にしている友達のことを信頼し、るんと同じように、大切にするようになります

そしてこれまでは、るんと会えない時間はひとり寂しくるんのことを思っていたけれど、そんなトオルを大事に思ってくれるユタカとミホが寄り添ってくれることで、トオルは、2人のこともきちんと大切にするようになっていきます

こうして、るんさえいれば十分だったトオルの世界は少しずつ拡張していきました。

それでも、1つ年が離れているという大きすぎる理由から、るんと一緒にいられる時間がいつか終わるということを、ふとした時にどうしても意識してしまいます。

当然、るんは先に卒業していきます。トオルは自分の周りに、るん以外の大切な存在ができましたが、るんが一番であることは変わりません

『Aチャンネル』は、トオルがるん一緒にいられることを主題に、ナギやユー子、ユタカとミホとも仲を深めていくことで、るんだけではなく、みんなともいつか別れてしまうことを必然的に意識させられるような作品となっていました

そんな毎日の楽しさと、別れの寂しさを表現したのがエンディングテーマ『ハミングガール』における「つぎの角で振り向きながら バイバイ」というラインです。

文意だけを考えると、それは日常的な挨拶で、ただの解散を意味しています。学校帰りに途中まで一緒に帰った際の情景が浮かぶ歌詞です。ただし、『Aチャンネル』と照らし合わせることで、近い将来訪れる、もう少し大きな別れが含まれる歌詞となっているのです。

「つぎの角」、つまり、やがてくる分岐点で、みんなはそれぞれ別の道に進むことになります。でも「振り向きながら」というぐらいですから、そこには未練や名残惜しさといった "別れたくない気持ち" が含まれています

しかし同時に「また会える」あるいは「また会おう」といった 希望や期待も感じとることができます。もしその別れが生涯にわたる別れであれば、もっとかしこまった別れとなるでしょうし、一方で、金輪際会うつもりがないというのであれば、お互いに振り向くことなどしないままに去っていくかもしれません。

毎日の別れ際が軽やかでいられるのは、明日また会えるという確信があるからです

「振り向きながら」する別れというのは、親しい人間同士によるカジュアルで愛のある挨拶です。新しい一日が始まれば、またみんなに会える。しかしそれは同時に、みんなとの別れの日が確実に近づいたことも意味します。

嬉しい毎日の訪れと、それが終わっていく寂しさを意識せざるを得ないような状況のなか、「じゃあね、明日ね」という期待を込めたフレーズに始まるサビが、「振り向きながら バイバイ」と閉じていくのです

明日への期待と寂しさの詰まったこの曲の歌詞は、まさに、『Aチャンネル』を的確に描写していたのでした。

最後にひとつ付けくわえるとするならば、この「振り向きながら バイバイ」という歌詞とともに、エンディングの映像では、るんとトオルがハイタッチを交わして別れていきます。親友との別れ際にある、寂しさを含みながらも気軽で愛のある挨拶表現は、2人の間にある、これ以上ないほどに絶妙な関係性がうかがえる演出となっていました


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