【色づく世界の明日から】① 琥珀にとって魔法とは何か

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2018年、P.A.WORKSのオリジナルアニメとして放送された『色づく世界の明日から』についていく連載記事。 1回目は、月白家の大魔法使いとして瞳美を過去へと送り飛ばした琥珀について見ていきたいと思います。 若い頃から一貫して魔法を追究する強い意志を持っていた琥珀にとって、魔法とは一体どんなものだったのでしょうか。

目次


魔法があたりまえに存在する世界

“マジカルステイ” で通じる世界

まずもって、本作の世界では魔法の存在が十分に認知されているようです。それは、瞳美が高校2年生として過ごしていた2078年の世界線だけの話ではなく、瞳美の祖母・琥珀が高校2年生だった2018年の時代からすでにそうでした。

瞳美は、月白家の祖先たちから勧められ学校へ通うことになります。とはいえ、60年先の未来からやってきたという事情を説明するとややこしいことになりますから、琥珀の母(瞳美にとっての曾祖母)は「先生がたには、親戚の子が “マジカルステイ" でしばらく滞在するって説明」したと言っていました。

マジカルステイ” という言葉が具体的に何を指しているかについての説明は最後までありませんでした。しかし、瞳美が60年まえの学校に転校生として教室に入ると、クラスメイトへの紹介として担任の口からはマジカルステイという言葉が注釈なしに使われていました。どうやら、魔法使いが日常的に存在していること、そして修行のために転々とすることがこの世界では不自然なことではないようです

まほう屋と星砂

魔法使いの家系・月白家は、少なくとも琥珀が高校生だった2018年の時点で、「まほう屋」を堂々と営んでおり、魔法が使えない唯翔たちも遊びにきています。

1話の冒頭を見る限り、2078年のまほう屋は寂れた風貌をしており、営業しているかどうか定かではありません。

ところが、2018年の「まほう屋」は十分に繁盛している様子でした

そこでは魔法アイテム ”星砂” が売られていて、のちに親交を深めた唯翔たちも店に遊びにきていることから、魔法使いにのみを対象としたクローズドな店ということでもないようです。

星砂は、宙に放つと魔法使いではない誰であってもちょっとした魔法の効果を得ることができます。ただし、それは日常を少し彩る程度の魔法に留められており、小さな星を降らせたり、いい香りがしたりと、幸福感を味わうための嗜好品として登場しています。現代でいうところのアロマなどに近いでしょうか。

このことから、どうやら魔法は身近にあるものとして広く受け入れられているようです

魔法使いへのイメージ

たしかに魔法は普及している様子ですが、かといって日常に埋もれるほど平々凡々なものではなさそうです。魔法使いの血筋を持つ瞳美がやってきたときの教室の騒がしさを考えると、多少なりとも珍しい存在ではあるようです。

それは、本作に登場する魔法使いが月白家の周囲には他にいないことからもうかがえます。

魔法使いの存在が希少であることで、魔法使いに対するイメージは身近な魔法使いの印象を引きずってしまいます。瞳美がやってきた学校で魔法が使えるのは他に琥珀のみで、琥珀は魔法によってやんちゃな事件を様々にやらかしていることから、校内では一部「魔法使いは珍しいが、近寄るとやっかいな存在」という認識を持たれていることもありました。

以上の点から、本作での魔法がどういった扱いなのかがある程度定まりました。

魔法使いの存在は希少で、やや敬遠されることがあるものの、日常を彩る嗜好品としての魔法は身近にあり、魔法は固有のスキルとして認められている。

魔法使いではない一般的な人々にそういった認識が前提としてあったことから、2人の魔法使いと親睦を深めた写真美術部のメンバーたちは、「瞳美が60年先の未来からやってきた」という話もすんなりと受け入れられたということになります。

では、当事者である月白家の魔法使いたちにとって、魔法とはどういったものなのでしょうか。今回は、2078年に強い時間魔法が使えるようになることが確約されている大魔法使い・月白琥珀について見ていきたいと思います。


琥珀にとって魔法とは何か

魔法でみんなを幸せに

琥珀にとって、魔法とはみんなを幸せにするためのものです。

8話の冒頭、魔法書を取り扱う古書店に訪れた琥珀は、自身が初めて魔法を使ったときのことを思い出します。

幼い琥珀は、自宅で両親と祖母に見守られながらたくさんのを星を降らせる魔法を使い、舞い踊っていました。そのときの気持ちを、琥珀はモノローグで語っています。

「初めて魔法を使った時の事は忘れられない。こんなに素敵なものを自分が使えるってことが嬉しくて、世界中に叫びたいくらいのありがとうって気持ち

喜びを、これ以上ないほどの言葉で表現しています。琥珀にとって、その瞬間は至上の幸福だったことでしょう。琥珀はさらに続けます。

「あの日から、たったひとつのことを願い続けてきた。わたしは魔法でみんなを幸せにしたい」

琥珀にとって、魔法とは幸福と密接に関わっているものです。そして、素直で快活な性格の琥珀は、そんな嬉しい気持ちをみんなと共有したいと考えていました

琥珀にはそのために魔法を極めていくという意志があり、魔法を学ぶためにイギリスへ単身留学をしていたほどです。もっとも「60年後の自分が、孫を送り込んできた」ということを聞いて大急ぎで帰国したということでしたが、そこには瞳美への興味だけでなく、自身の魔法使いとしての自身の未来像についても興味があったのかもしれません。

周囲の理解と賢い琥珀

琥珀は、瞳美と出会うまえから信念を持って積極的に魔法を使うようにしていました。

学校での琥珀は、魔法によって数々の失態を犯し何度も始末書を提出させられていることで有名でした。そのせいで ”魔法使い” への印象が悪くなり、転校してきた瞳美が怪訝な目を向けられてしまうほどでした。

ですが、あさぎが「大抵の人は琥珀ちゃんとふつうに仲良しだから」と言っていたように、琥珀は学校で明るい人気者のような立場だったようです。

実際、琥珀が「出張占い」という魔法を使ったイベント学校で開くと、屋上から階段に渡って大行列ができたほどです。

考えてみると、学校の天井を突き破ったり、教室を灰だらけにして何度も始末書を提出させられているにもかかわらず、停学や退学といった処分を受けていないのは不思議です。それはおそらく、琥珀の失態はどれもみんなに楽しんでもらおう、喜んでもらおうとしているものだからではないでしょうか。

魔法を使ってみんなを幸せにしたい」と願う琥珀は、たしかに何度も大きな失敗をしでかしているはずです。しかし、魔法に巻き込まれたあさぎや他の生徒たちは、なんだかとても楽しそうにそれらの経験を語っていました

また、いつも琥珀に始末書を提出させている教頭ですが、指導をする際はかならず穏やかな口調で接しています。それは教頭の性格が起因しているのかもしれませんが、校内を破茶滅茶にする生徒がいれば、もっと怒鳴ったり辛辣なセリフを吐いてもおかしくはないところではあります。

もし本当に琥珀が迷惑なだけの生徒だとしたら、高校生ともなれば問答無用で処分がくだされてもおかしくはありません。ところが琥珀は始末書だけで済んでいるようです。

琥珀はみんなにイギリスの景色を見せたり、花火を打ち上げたり、瞳美と一緒に絵の中へ連れて行ったりと、ワクワクするようなことをいつも考え、実行していました。そこには琥珀なりの信念があり、それがみんなにも伝わっていたのかもしれません。

2年生になってもいまだ処分されていないのは、誰とでもすぐに仲良くなれてしまう気さくさにくわえ、それらの行動がみんなに幸せを振りまくためであることが明確だったからではないでしょうか。

人々の幸福に寄与しようとする生徒を、だだむやに処分するわけではなく、ミスはミスとして認めさせたうえで反省してもらう。理解のある大人がいる学校で、やってはいけないラインは超えない賢さを持って積極的に行動し、みんなを楽しませようとしている琥珀にとっては、学校は、安全な魔法の実験場でもあったのかもしれません

琥珀の迷い

「魔法で人を幸せにする」という信念をいつも抱いている琥珀ですが、同時に、それを実現するのは簡単ではないということもよく知っていました。

琥珀は、自身の魔法で瞳美を未来へと送り返すことを決意します。60年後の自分が時間魔法で瞳美を送り出したのであれば、現在の自分の役目は瞳美を送り返すことだと考えたからです。

そのための修練に励む琥珀は、あるとき枯れた花を蘇らせる時間魔法を成功させました。同じ魔法で、故障したあさぎのカメラの時間を巻き戻して修復させると、いよいよ得意げな顔を見せます。

ところが、咲き戻ったはずの花は少しの時間で枯れてしまったうえに、あさぎのカメラはまた故障してしまいました。時間魔法を扱えるようになったと思っていた琥珀は自身の失敗に気がつくと、このままでは瞳美を送り返せないのではないかと焦るようになりました。

そんなおり、瞳美たちは部活動の一環として日常風景の写真を撮影しにいきます。みんなと撮った写真を眺める瞳美は、未来に帰りたいのかどうか迷っているとことを告げると「ここにいたいなぁ...。」と漏らします。

瞳美は、過去へやってきて戸惑いながらも琥珀や唯翔、あさぎたちと出会い、自身の感情や他者の感情に対して素直に反応したり、表現するようになってきていました。みんなといることで、少しずつ自身が変われてきていると思っている瞳美が、今すぐ未来へ帰らなければならない理由などあるでしょうか

何より、ここには瞳美に色を見せてくれる唯翔がいます。

瞳美を送り返してあげたいと意気込んでいた琥珀でしたが、ここににいたほうが瞳美は幸せなのではないか。「魔法で人を幸せにしたい」と思っている琥珀は、どちらが瞳美を幸せにするのかわからなくなってしまいます

決意と信念

夏が開け、もうすぐ文化祭です。魔法写真美術部は、写真の展示や魔法で絵の中を探検するツアーを開くための準備に取り組んでいました。

そんなおり、瞳美の姿がこつぜんと消えてしまう現象が発生します。

その現象について琥珀がロンドンの魔法学の教授にメールで尋ねてみたところ、「なるべく早く瞳美を未来へ送り返さなければ、瞳美が “時の間(ときのあわい)”に閉じ込められてしまうかもしれない」ということがわかりました。

琥珀は、瞳美をはじめ魔法写真美術部のメンバーに事情を話すと、数日後に行われる文化祭の後夜祭のあとに瞳美を送り返すことが決まりました。

まだ帰りたくない瞳美と、まだまだ一緒にいたいみんな。もちろん別れは寂しいものですが、それでも瞳美のために、最後の日までしっかりと思い出を作っていきます。

文化祭が終わり、いよいよ帰還する日になりました。

心残りがないようみんながしっかりと別れの挨拶を済ませたあと、琥珀が呪文を唱えると、瞳美は未来へと帰っていきました。

別れを見届け、寂しそうにたたずむ魔法写真美術部の面々。しかし、琥珀だけは険しい顔をしていました。時間魔法に使った “星砂時計” というアイテムを見つめたまま、モノローグが入ります。

「瞳美を未来に返したのは、わたしの時間魔法じゃない。そのことは私だけが知っている。瞳美の無意識の魔法が解けることが、旅のリミットだったんだ」

衝撃の事実です。瞳美を未来へ戻そうとあれだけ努力していた琥珀ですが、瞳美が未来へ帰る鍵は、琥珀の時間魔法ではなく、瞳美自身にあったのです。

瞳美の無意識の魔法” というのは、瞳美の内面によるものであり、それが具体的にどんなものかが解明されることはないでしょう。ただし琥珀が指摘していたとおり、瞳美が自分で「あらゆるものを見てしまわないように」とかけた、色が見えなくなってしまう魔法のことを差しているかと思われます。

瞳美はみんなに支えられながら努力して、押し込めていた気持ちの扉を解放したことで、自身にかけてしまっていた「色が見えなくなる魔法」を解くことができました。それをトリガーに、瞳美が60年前に送られていた時間魔法の効果が消え、未来に戻ることができたのです。

自分の魔法で人を幸せにしたいと願う琥珀ですが、今回は、自分の魔法が瞳美を送り返すことに貢献していなかったことが、琥珀を険しい表情にしたのです。

そして、瞳美を60年前へ飛ばした未来の自分自身の力には遠く及ばないことを知ると、「いつか、きっと・・・!」と意思を固めます。

17歳の琥珀の技量では、まだ時間魔法をほとんど扱えません。しかし、60年後に自分の孫として瞳美と出会い、その先で瞳美を60年前に送り出す役目を担わなければならないというのならば、そのときまでに大きな時間魔法を扱えるようになっていなければならないのです。

時間魔法はとても難しいものとされています。そして、60年という長い年月の間中ずっと意志を保ち続けることもまた困難に思えます。未来で瞳美を60年前に送ると誓った琥珀の決意はどれだけ固かったのでしょうか。ここで、1話の冒頭に戻ってみましょう。

2078年。花火大会で瞳美と落ち合った琥珀は、星砂時計を取り出します。これは、13話で瞳美を未来に送り返すときに使ったものと同じものであると見受けられます。

星砂時計を不思議そうに見つめる瞳美に、琥珀は言います。

「今日のために、60年分、満月の光を浴びさせ続けてきたのよ」

琥珀は瞳美が未来に帰ってから60年間、瞳美を過去へ送り返すための行動を取っていたということがわかります。

そうしてようやく、瞳美を60年前にまで送り返すのに必要な魔力が溜まったということでしょう。60年もの間、琥珀がずっとこの瞬間のことを考えていたのは言うまでもありません。

「未来の私がかけた大きな魔法は今はまだ届かないけど、いつかきっと・・・!」

2018年、瞳美を自身の魔法で送り返せなかったあの日から、いつかきっとと願い続けてきた琥珀の努力がようやく実ったのです。

瞳美の幸せと琥珀の幸せ

「2078年の琥珀が瞳美を2018年に送りこむ」ということと、「2018年を過ごした瞳美が2078年へ帰った」ということを、琥珀は2018年の時点で知っています。しかし、瞳美が2078年に戻ってきてからのことは、琥珀もまだ体験していませんから、何も知りません。

17歳のころ、未来からやってきた孫と過ごした琥珀は、必ず未来で時間魔法を使えるようになると決意し、60年後にそれを実行します。

2078年の瞳美は、60年前に送り込まれたことで、2018年に同い年だった琥珀と同じ時間を過ごします。そこでたくさんの色を見てきた瞳美は、とても幸せそうでした。

"魔法でみんなを幸せに” という琥珀の信念は、戻ってきた瞳美の「幸せだった」という言葉によって達成されたのです

そうして、60年間の時を経てようやく、孫である瞳美と同じ時間を過ごした友として話ができるのですから、琥珀にとってどれだけ幸福だったことでしょうか

まとめ

琥珀は、生まれて初めて魔法を使ったその瞬間から、ずっと一貫して人を幸せにするために魔法を使おうという信念を持っていました。

幼いころに抱いたその信念は、77歳になってなお持ち続けていたようです。

17歳で瞳美と出会っていなくてもきっとそのまま魔法を極めていたであろうと感じさせるくらいには強い意志を持っていた琥珀でしたが、瞳美と出会ったことで、簡単には成し得ないとされている大きな時間魔法すらも習得するまでに至ったのではないでしょうか。


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【Aチャンネル】"振り向きながら バイバイ" という至高の歌詞について

2008年から「まんがタイムきららキャラット」にて連載中の、黒田bb氏による4コマ漫画『Aチャンネル』。2011年にアニメ化し、OVAも製作されるほどの人気を誇るこの作品の魅力は、エンディングテーマ曲における最後のワンフレーズ、<b>「 つぎの角で振り向きながら バイバイ」</b>という歌詞に凝縮されています。タイトルを『ハミングガール』とするこの主題歌の作曲は、アニソン界に知らない人はいない<b>音楽制作集団MONACA所属の神前暁氏</b>が、そしてその作詞を、これまたアニソン界に知らない人はいない<b>こだまさおり氏</b>が手掛けるという、まさに夢のタッグによって製作された曲です。曲の雰囲気としては、マーチのように明確で軽快なリズムを刻みながら、楽しい放課後に中の良い友達と一緒に帰っているような気分にさせてくれるもので、歌詞もまた同様にそういった内容となっています。今回冒頭で紹介した「次の角で 振り向きながら バイバイ」という1行は、この曲の最後を締めくくるフレーズとなっています。では、この歌詞がいったいどのように『Aチャンネル』を描写しているのかという話をしていきたいと思います。

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