【色づく世界の明日から】③唯翔にとって絵とは何か

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2018年にP.A.WORKSによって制作されたオリジナルアニメ『色づく世界の明日から』について書いてきた本連載。

瞳美を過去へと送り飛ばした琥珀について書いた1回目、そして、過去へと送り飛ばされた張本人であり、本作の主人公・瞳美について書いた2回目から転じて、今回は、瞳美が出会い、瞳美の心を動かした重要人物・葵唯翔(あおい ゆいと)について見ていきたいと思います。

いやに大人びた落ち着きを備え、ひとりもくもくと絵を描くことをライフワークとしていた唯翔にとって、絵とはどういうものだったのか。

そして、瞳美と出会ったことで、唯翔にとって絵がどんな意味を持つようになっていったのでしょうか。

目次


自分のための絵

瞳美と出会う前

絵を描くことをライフワークにしていた唯翔でしたが、描いたものを誰かに見せることを好んでいませんでした。写真美術部に所属しているものの、部室で絵を描いている様子は見られず、公園などでひとり黙々と描いていました。

高校卒業後は美大などを目指さずに就職を考えており、「働きながらでも絵は描ける」という姿勢でした。いうなれば、物語の序盤、唯翔にとって絵とは、自分を満たすためだけに存在していたようです

ところが、瞳美と出会ったことで、唯翔は絵を描くことに意味を持つようになりました

瞳美との出会い

唯翔は最初、迷惑な人物として瞳美と出会いました。

自身の部屋から女の子が出ていったという周囲からの証言と、瞳美が落としていった魔法アイテム “アズライト” が証拠となり、唯翔は瞳美を不法侵入者として認識します。

その後、事情を話してアズライトを返してもらおうと接触してきた瞳美から「絵を見せて欲しい」というお願いをされた唯翔ですが、それを拒否すると「勝手に家に入って、何してたの?」と詰め寄りました。瞳美のことをまったくもって信用していない様子です。

瞳美が自分の部屋に侵入していた事情を聞いた唯翔は、許しはしたものの「今度から注意して」とだけ告げると、そそくさと帰っていきました。

しかし、事態はまだ収束していません。

瞳美が、唯翔の部屋の窓から脱出したところを学校の生徒に見られていたため、 ”唯翔が女の子を連れ込んだ” として、校内中で噂になってしまったのです。

唯翔からすれば、とんだとばっちりです。勝手に部屋に入られたあげく、「魔法使いの転入生と付き合ってる」などと騒がれているのですから、ウンザリするのもうなずけます。

周囲から冷やかされた唯翔は、それが瞳美の言うとおり「魔法のせい」であること証明してもらい、あらぬ疑いを晴らそうと考えました。

瞳美を許しはしたものの、本当に魔法のせいで部屋に侵入されたのかどうかは疑わしいところですから、みんなが見ている前で瞳美に魔法を使ってもらえばすべてが解決すると考えました。唯翔には、瞳美に魔法を要求するだけの正当性があったのです。

学校に在籍していた魔法使いは、他には琥珀だけでした。そのため生徒たちは「魔法とは、琥珀が起こす派手な催しもの」といった認識がされていたようで、”編入してきたばかりの魔法使いが何かしでかしてくれるのではないか” と、瞳美の魔法実演に野次馬が群がります。

魔法嫌いな瞳美

瞳美は魔法が嫌いでした。 こちら <!--『瞳美にとってまほうとは何か」が入ります -->で書いたように、瞳美にとって魔法とは、自分や誰かを不幸にするものだったのです。

しかし、瞳美は唯翔の絵にだけは色を見ることができました。そして、その絵をちゃんと見たいと思っていました。

絵を見せてもらうために、瞳美は唯翔からの信頼を得なくてはなりません。このままでは、瞳美はただ “妄言を吐く不法侵入者” という扱いで、唯翔に面倒をかけているだけの存在となってしまいます。

魔法を見せたら、わたしのこと信じてもらえますか?

野次馬だらけの廊下でそう問いかけた瞳美に、唯翔は「もちろん」と返します。

ところが、瞳美は魔法が嫌いで避けてきたため、ほとんど練習をしてこなかったようです。手のひらにかすかな光を灯す魔法が精一杯でした。

やりたくない魔法をさせられて、周囲の期待の目にさらされたあげく、ガッカリされる。しかも、実演後に唯翔は何も言葉をかけてくれません。こんな微力な魔法で自分を信用してくれたかもわからない。耐えかねるような状況のなか、瞳美はその場を立ち去ってしまいます。

人を喜ばせるための絵

「わたしにとって特別なんです」

それから少しして、瞳美は絵を見せてもらおうと、ふたたび唯翔の元を尋ねます。唯翔が期待していたであろう魔法は見せられなかったということを謝罪し、それでも信じてもらうために最大限努力したことを伝えます。

すると意外にも、唯翔も謝罪の言葉を口にします。瞳美がやりたくないことをさせてしまったという点で、唯翔は悪かったと思っていたようです。

ところが、瞳美は必ずしも嫌々と魔法を披露したわけではなく「下心があった」と言います。唯翔に絵を見せてもらいたかったらから条件を飲んだと言うのです。

唯翔は、初対面のときと同様に、瞳美の「絵を見せて欲しい」というお願いを拒否します。しかし、前回は瞳美が不法侵入を犯した不審者扱いをされていたのが原因となっていましたが、今回は「人に見せるの、あんまり好きじゃないんだけど」というのが理由でした。

それでも瞳美は続けます。どうやら、軽い気持ちで絵を見せてほしいと言っているわけではなさそうです。

あの絵は、わたしにとって特別なんです。あの絵は、わたしに忘れていた色を見せてくれました。灰色だったわたしの世界に、一瞬、光が差したんです。

改めて丁寧にお願いされた唯翔は、瞳美に絵を見せることにしました。

自分が描いた絵を「特別」とまで言ってくれたことにくわえ、やりたくない魔法を披露して見せてくれた瞳美への謝罪や感謝の意味もあったのかもしれません。自分だけが、見せたくないものを見せないというのもフェアではないと。

絵を見せることで、"おあいこ" ということにしたのかもしれません。唯翔は瞳美にタブレットを手渡します。

瞳美はそれを、しっかりと目に焼き付けるようにして眺めました。そして礼を告げると、その場から立ち去ろうとします。すると、今度は唯翔から言葉をかけました。

また見せてよ、魔法。星とか出せるのって結構すごいと思うよ。俺の絵なんかよりもすごいって。絶対に。

唯翔は、人に見せたくないと思っていた自分の絵を「特別」だと言ってくれた瞳美に対して、同じように瞳美が見せたがっていない魔法もまた、すごいものなのだということを伝えたのです。

喜んでもらえるということ

唯翔にとって、自分の絵は瞳美に幸福をもたらすものでした。色が見えなくなって久しい瞳美が、また色を見ることができる。そして、また見たいと思えるだけの気持ちをも。

それまで自分が満足するためだけに描いていた絵が、誰かにとって特別なものになるということを唯翔はここで初めて体感しました。

だからこそ唯翔は、魔法を使うことにためらいがある瞳美の魔法も、他の誰かから見たらすごいものだということを、瞳美に伝えることができたのではないでしょうか

絵を、人に見せるのものではないと思い込み、殻に閉じこもっていた唯翔。同じように、魔法は人を不幸にすると思い込み、殻に閉じこもっていた瞳美。2人は出会い、お互いを尊敬しあうことで、唯翔も瞳美も少しずつ変わっていきました。

魔法と絵と内面と

瞳美にとって魔法が内面と深く結びついていたのと同じように、唯翔の絵もまた、唯翔の内面と深く結びついていました。瞳美が魔法で唯翔の絵に入り込んだあと、唯翔の内面に少しばかり干渉しすぎてしまったために、唯翔は傷つき、瞳美はまた魔法で人を傷つけてしまったと落ち込んだこともありました。

しかし、2人はまた反省しあい仲を取り戻すと、唯翔からはこんなセリフが飛び出しました。

いま描いてる絵、できあがったら、月白に見てほしい

自分のためだけに絵を描いていた唯翔が、はじめて他人に自分の絵を見せたがりました。瞳美に対し「見てほしい」と明言したのです。

それからは、お互いに自分のできることで人を喜ばせるという視点を持つようになっていきました。その集大成が文化祭です。

文化祭

文化祭では琥珀の提案により、唯翔が描いた絵の中を瞳美の魔法で冒険するという企画が行われました。琥珀も一緒に魔法を使いましたが、あくまでも琥珀は、瞳美をメインに考えています。

というのも、琥珀によれば他人の絵の中に入る魔法というのは、その作者との心の結びつきが重要であり、簡単なものではないとのこと。魔法にも得意不得意があるとはいえ、 魔法を積極的に追究してきた琥珀 <!-- 「琥珀にとって魔法とは何か」が入ります-->でも扱えない魔法を、瞳美は無意識にやってのけていたのです

最初こそ、唯翔の絵に勝手に入り込んでしまった瞳美でしたが、琥珀とともに訓練し、絵の中に入るための魔法を習得することができました。

そして、唯翔もまた、文化祭でみんなに楽しんでもらうための絵を描きました。いつもはひとり黙々と絵を描き、人に見せることすらしていなかった唯翔が、部のみんなから好きなモチーフを聞き、自分の絵に活かしていくという描き方をしたのです

「魔法なんて」と思っていた瞳美が唯翔と出会ってから、魔法で誰かを喜ばせることができるかもしれないと思うようになったのと同じように、人に見せることなく自分のためだけに絵を描いてきた唯翔は、瞳美と出会ったことがきっかけで、自分の絵が人を喜ばせることができるということを知っていったのです

まとめ

自分が抱える葛藤を簡単に解決するのはそう簡単ではありません。瞳美は魔法を嫌い、ひとりでいるようにして暮らしてきました。唯翔もまた、ひとりで絵を描いてきました。

ところが、唯翔が絵を描く意味を思い出させてくれたのが瞳美です。最終話の唯翔は、こんなセリフを放っています。

人に喜んでもらうこととか、絵を描く楽しさとか、そういうことを思い出したんだ

「絵を描く道を諦めようと思ってたんだ」とまで言っていた唯翔は、卒業後の進路を真剣に考えなおし、絵を描いていく道を志すようになります。

その結果は、瞳美が60年後に戻ったあと、琥珀によって明かされました。幼い頃、瞳美が色を見ることのできた唯一の絵本『なないろのペンギン』は、唯翔が瞳美に向けた60年後のプレゼントだったのです。


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【Aチャンネル】"振り向きながら バイバイ" という至高の歌詞について

2008年から「まんがタイムきららキャラット」にて連載中の、黒田bb氏による4コマ漫画『Aチャンネル』。2011年にアニメ化し、OVAも製作されるほどの人気を誇るこの作品の魅力は、エンディングテーマ曲における最後のワンフレーズ、<b>「 つぎの角で振り向きながら バイバイ」</b>という歌詞に凝縮されています。タイトルを『ハミングガール』とするこの主題歌の作曲は、アニソン界に知らない人はいない<b>音楽制作集団MONACA所属の神前暁氏</b>が、そしてその作詞を、これまたアニソン界に知らない人はいない<b>こだまさおり氏</b>が手掛けるという、まさに夢のタッグによって製作された曲です。曲の雰囲気としては、マーチのように明確で軽快なリズムを刻みながら、楽しい放課後に中の良い友達と一緒に帰っているような気分にさせてくれるもので、歌詞もまた同様にそういった内容となっています。今回冒頭で紹介した「次の角で 振り向きながら バイバイ」という1行は、この曲の最後を締めくくるフレーズとなっています。では、この歌詞がいったいどのように『Aチャンネル』を描写しているのかという話をしていきたいと思います。

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