【色づく世界の明日から】⑤風野あさぎは「あさぎ色」から来てるって本当ですか?

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2018年、P.A.WORKSのオリジナルアニメとして放送された『色づく世界の明日から』。真正面から青春ファンタジーを描いた本作は、そのタイトルどおり「色」がとても重要な要素でした。

その演出についてはこちらの記事に記しましたが、世界観設計のこだわりが強い本作は、「キャラクターの名前」という要素ひとつとってもその世界観を強化するものでした。

本記事では、そんな本作に登場するキャラ名の由来となっている色について見ていきたいと思います。

目次


色を取り戻す物語

『色づく世界の明日から』をざっくりとまとめると「色が見えなくなる魔法を自分にかけてしまった魔法使いが、たくさんの色に触れることで、色を取り戻す物語」といったところでしょうか。

主人公で魔法使いの月白瞳美は、魔法使いの家系ではじめて魔法が使えない存在だった母が自分を置いて出ていってしまったことについて「魔法が使えた自分に浮かれて、母の気持ちに気づけなかったから」と思い込んでいました。

「魔法なんてなければ」と魔法を使える自分を責め、ふさぎこんでしまった瞳美は、あるときから色が見えなくなってしまったのです。

そんな瞳美は、あるとき祖母の琥珀から時間魔法で60年前に送り込まれると、60年前では同い年にあたる琥珀やそこで出会った人たちによって、思い込みやふさぎ込みから抜け出すことができ、無事に色が見えるようになりました。

色との出会い

瞳美にとって60年前の琥珀たちと触れ合うことは、たくさんの感情や気持ちを知ることに繋がりました。見ないようにしていたものを目にしていくなかで、もっと色々なものを見たいと思うようになったことが瞳美を変えたのです。

そうして、瞳美は自身が何も見えないようにすることで無意識に自分にかけてしまっていた「色が見えなくなる魔法」を解くことができました。

そんな瞳美が出会った仲間たちは、瞳美が知らなかったたくさんの気持ちを教えてくれたという意味で「たくさんの色を教えてくれた」と比喩することができそうです。

その内容を示唆するかのように、瞳美が出会った仲間たちの名前には、色の名前がつけられていました。

山吹色

まずはわかりやすい名前からいきましょう。魔法写真美術部の部長・山吹将。彼の名字・山吹が差しているのは「山吹色」です。黄色の花を咲かす「山吹」という植物に由来する色となっています。

魔法写真美術部の部長として全体を見渡し、幼馴染であるあさぎへの面倒見もとても良いお兄さん的存在の彼には、明るくて温かい、柔和な印象を持つ山吹の色がとても似つかわしいのではないでしょうか。

千草色

魔法写真美術部の1年生・深澤千草の名が持つのは「千草色」です。文字通り、「いろいろな草」を表す言葉によって示される色は、わずかに緑のかかった青といった具合です。

全体として青を基調としている本作において、トーンから外れない青系の色はとてもマッチしています。

明るいながら落ち着きのある千草色は、ムードメーカとしての千草の明るさを表しているようです。それでいて、ときとして大切なことをスッと言い放つスタンスが、千草色のはしゃぎすぎていない明るさそのものではないでしょうか。

胡桃色

魔法写真美術部の3年・川合胡桃。彼女の名前が示すのは、クルミの色を示す胡桃色です。

ところで、まさに先ほど「青を基調としている本作」という話をしたばかりですが、クルミというのは大まかにいえば茶色になります。

山吹将が名に持っていた「山吹色」にくわえ、赤・茶・黄系の色は青とはまったく異なる色相に位置します。

しかしながら、色相環で考えると赤・茶・黄色系の色は本作のベースとなっている青系の色と対象の位置、つまり補色の関係に近いものとなっています。

補色について詳しく説明することをここでは避けますが、ざっくりいうと「反対の関係にある色同士は、お互いの色を最も目立たせる」といったところです。ただし、正確には色相環の正反対に位置するものが補色となるわけですが、ここでは大まかに「反対側辺りにある色」として補色という言葉を使います

真逆であることが、かえってお互いを引き立たせるということを考えてみると、千草色のと反対側にある胡桃色は、いつも口喧嘩ばかりしている千草と胡桃が結果としてお互いを引き立たせ合っている関係にあるという深読みをすることができそうですね。

あさぎ色

「浅葱(あさぎ)」という言葉はあまり聞き慣れないのではないでしょうか。60年前に送られた瞳美にとって初めての友達となった風野あさぎが名に持つ「あさぎ色」。

浅葱とは「あさつき」という植物を由来としている色の名前です。同じ漢字を用いて、色の名前としては「あさぎ」、植物の名前としては「あさつき」と読みます。

あさぎ色の特徴としては、ねぎに似た植物であるあさつきの葉の緑にもう少し淡い青みの・・・。

もっとわかりやすい説明がありました。作中、あさぎが自身の髪を結んでいる紐飾りが、まさに「あさぎ色」となっています。

さらにいうと、瞳美もあさぎ色を身に着けていました。

2018年の学校では、あさぎたちが着用している女子の制服には赤のリボンがあしらわれています。ところが、未来から訪れた瞳美が着用していた60年後の制服は赤いリボンではなく、あさぎ色のリボンとなっていました。

あくまで深読みとして楽しむレベルの話ですが、瞳美は「あさぎ」の名を持つ色を体のごく身近な部分にいつも身につけています。制服なのであたりまえですが、瞳美にとっては「あさぎ」がお守りになっていると解釈することもできそうです。

未来からひとりやってきて不安を抱える瞳美が、初めてできた友達への安心感や信頼の表れとして「あさぎ色」を身に着けているような設定だとしたら、とても素敵ではないでしょうか。

琥珀色

瞳美にとってのキーパーソンのひとり・月白琥珀の名が示しているのが「琥珀色」です。

琥珀とは、樹木から分泌された樹脂が数千万年もの時間をかけて化石となったものです。系統としては茶色に近いものの、琥珀は樹脂であり透けているため、光に当たることでオレンジ色にも見えます。その輝きからか、分類としては宝石にも該当しています。

色味だけでいえばやや地味な茶色にも思えてしまうのですが、”長年かけて化石になった琥珀” という時を感じさせるアイテムが輝くさまは、やがて時間魔法を扱う大魔法使いになる琥珀にぴったりの名前かもしれません。

葵色

瞳美にとって大切な人となった葵唯翔(あおい ゆいと)が名字に持つのは「葵色」です。葵色とは、その名の通り「葵」という花が持つ色が由来となっています。

淡い色の花を咲かせる葵は、灰色が少しかかった上品な紫色といった印象の色をしています。

紫色自体が赤と青の中間色となっているわけですが、葵色について言葉にしようとするならば、これよりもう少し繊細な表現を使う必要がありそうです。

たとえば、青のような知性や落ち着きぶりを感じさせつつ、赤のような熱量がほんの微かに感じられ、決して強い色ではないものの、何かを語ろうとしているようにも思える色。などと筆者の印象のみで語ってみていますが、葵色を描写することはとてもむずかしいということだけがわかりました。

その美しくやわらかい魅力は、そのまま唯翔が持つ繊細さとマッチしているように思えてしまいます。落ち着いていて、平静な態度でありながらも、それでいて赤のように強い主張を内面に合わせ持っている唯翔の性格が、そのまま葵色から見受けられるのは、『色づく世界の明日から』を視聴したみなさんならば、もしかしたら理解いただけるかもしれません。

月白瞳美

最後に、この物語の主人公・月白瞳美についてです。

瞳美は色が見えません。そのことを踏まえて「月白」という名字を見てみましょう。

「月白」というのは、月を思わせる白に、ほんのかすかに青と灰色のかかった色を示す言葉です。瞳美の髪色がまさに月白に近いと言えるでしょう。なお、「げっぱく」と読むこともあります。

白というのは色ではありませんから、瞳美が月白という名字であるのも頷けます。

しかし、それではおかしなことになってしまいます。月白家の人間はみな「月白」の名を持つわけですから、瞳美だけが「色が見えない = 月白」という設定では、やや安直すぎるではありませんか。

ですが、ご安心ください。『色づく世界の明日から』の世界観設計はそう甘いものでもなさそうです。

琥珀の祖母で、瞳美にとっては祖母の祖母(高祖母)にあたる月白柚葉。この名前には「柚葉色」という色が示されています。濃く、深い緑のような色です。

そして、琥珀の母であり、瞳美にとっては祖母の母(曾祖母)にあたる月白瑠璃。「瑠璃色」という言葉はご存知かと思いますが、濃い青のような色をしています。こちらもまた柚葉色と同じように、深みを持ち合わせた色となっています。

魔法使いではなく一般人である琥珀の父・弦という名前には色の名が当てられていないようですが、少なくとも、月白家の魔法使いには色の名前が入っていました。

では、月白家の魔法使いであるにもかかわらず、瞳美だけが「月のような白」に「瞳美」と、色の名前を持っていないのはなぜでしょうか。

先に言っておくと、これらは本編上に説明がなされているわけではない設定上の話であるため、あくまでも推測の範囲を出ることはありません。

ただ考えられるのは、本作が「過去に送られた瞳美が、たくさんの色を見てくることで失った色を取り戻す物語」だからではないかということです。

瞳美を60年前に送り込むんだ2078年の琥珀は、時間旅行を終え、色が見えるようになった瞳美に対して「見てきたのね。瞳をそらさずに」と伝えます。

瞳美は色が見えません。それは瞳美が強い思い込みによって自身にかけてしまった魔法によるものでした。自分が魔法を使えるせいで、母は苦しみ出ていったと思い込んでいたため、魔法が嫌いで、魔法が使える自分は幸せになってはいけない存在だという思いを抱いていました。

ところが、60年前の琥珀や唯翔たちと出会ったことで、瞳美はたくさんの気持ちを知りました。

それは、2078年に戻ってきた瞳美が口にした言葉からわかります。

「楽しかった。でも、悲しかった。不安で怖くなって、嫌になった。夢中になって、ドキドキしたり、嬉しくなって、切なくなって。怒ったり、泣いたり。胸が締め付けられるほど苦しくなったり、帰りたくなくなるくらい恋しかったり。」

それなりに分量のあるセリフですが、そのすべてが感情に関する言葉で埋めつくされています。

瞳美は、60年前のみんなと過ごしていくうちに、これまでフタをしていたたくさんの感情に気がついたのです。今まではずっとふさぎ込み、感情すらも抑え込むように暮らしていた瞳美には、とても貴重な経験だったようです。そうしていくうちに、自身の感情を自覚し、発露することができるようになりました。

特に、唯翔との出会いは重要でした。自分にも色が見えるかもしれないと思わせてくれたのは唯翔で、瞳が色を見ることができる唯一の絵を「月白に見てほしい」と言って描いてくれたのが唯翔でした。

さらに、もっと色が見たいと思えるようになったのは、魔法写真美術部のみんなと同じ景色を見ることができるからで、同じ景色を見るために琥珀と協力して、唯翔の絵の中へ魔法で入り込んだりもしました。

母を不幸にしてしまったと思い込み、魔法は自分や誰かを不幸にしてしまうものでだった瞳美は、唯翔のおかげで思い込みから解放され、みんなのおかげで魔法を使うことも、魔法を使う自分のことも肯定できるようになりました。

そうして2078年に戻ってきた瞳美が、たくさんの感情に触れてきたことを「でも、幸せだった」と締めくくっているのは、瞳美にとってみんなとの出会いがかけがえのないものであったことを示しています。

瞳美が色の名前を持たないのは、最初に色が見えなかったから。そして、色の名前を持つみんなと出会い、たくさんのものを「瞳をそらさずに」見てきたことで、色を取り戻した。

このように解釈すると、「みんなが色の名前を持っていること」と「瞳美だけが色の名前を持たないこと」、そして「彼女が “瞳美” という名前であること」の理由が推測できるのではないでしょうか。

まとめ

塞ぎこみ、いろんな気持ちを見ないようにしたことで色が見えない魔法にかかった瞳美が、仲間と出会ってたくさんの気持ちに触れていくことで心のフタを外す。

そんな物語の流れを、「色が見えなくなる魔法を自分にかけてしまった魔法使いが、たくさんの色に触れることで、色を取り戻す物語」と解釈してみたのですが、いかがでしたでしょうか。

最後に、彼女たちが持つ色の名前を一覧にまとめてみました。ただし、本作における正確な色彩設定ではなく筆者が近い色を持ってきたものとなりますので、ご了承ください。

みんなの色
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